サワフタギの花と果実
近くの雑木林で、サワフタギSymplocos sawafutagiが青い果実をつけていた。サワフタギは、この美しい果実から、ルリミノウシコロシ(ウシコロシとは物騒な名だが、よく似た葉を持つバラ科のカマツカの別名)やサファイアベリーと呼ばれることもある。花は初夏に、たくさん咲いていたのだが、なぜか結実しているものは少なかった。
サワフタギの属すハイノキ科はハイノキ属Symplocos1属からなり(ミヤマシロバイ属を独立した属と認める見解もある)、アジアやオセアニア、南北アメリカの主に熱帯、亜熱帯域に約300種がある。ほとんどが常緑性の種で、サワフタギのような落葉性の種はごく少数である。
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開花は5月初め頃で、たくさんの白い花を、頂生する円錐花序に付ける。花もとても美しく、園芸植物としても利用される。
花にはたくさんのハナムグリやコガネムシがやってきていた。蜜を舐めるためと思われるが、中には交尾しているものもいて、雄と雌の出会いの場所にもなっているのかもしれない。
花は直径8mmほどでかたまって付く。
花には多数の雄しべがあり、開いた花冠を被うように突き出して、やくに黄色い花粉を付けている。この雄しべは基部で複数本が癒着し、花冠の基部に合着している。ハイノキ属の学名のSymplocosは、ギリシャ語で“複合している”という意味で、癒着した雄しべの形に由来する。中央に雌しべが1本、突き出している。花びらの上には蜜と思われるものが光っている。
側面からみた花。5枚の花弁は基部で合着し、その外側に小さながく片が見える。子房下位である。
果実の拡大。陶器のような輝きのある青色が美しい。表面には剛毛がまばらに生えている。頂部にくちばしのように見えているのは、残っているがく片である。
側面から見た果実。下側に見える果柄との位置関係からもわかるように、果実は必ず微妙に歪んでいる。この微妙な歪みと先端に残るくちばし状のがく片がハイノキ属の果実の特徴である。
果肉を除去して果実の内部を見たところ。中央に見えるのは種子では無く、硬化した内果皮すなわち核である。核の先端に、枯れた雌しべの花柱が見えている。青色を呈するのは、外果皮だけで中果皮は白色であることがわかる。
取り出した核。扁平な巾着袋のような、不思議な形をしている。頂部に見える環状の部分は花冠やがく片の付いていた跡で、その内側の平坦な部分は花床ということになる。
核を縦方向に切ると、底側に曲がった種子が1個だけあり、その上側は中空になっている。種子には胚乳が多く、左側の断面には胚も見えている。
サワフタギの美しい青色の果実には、何か意味があるのだろうか。同じような美しい青色の果実は、北米のガマズミ属の一部の種(トキワガマズミなど)でも知られている。ガマズミ属では果実の色と成分との対応関係が網羅的に調べられ、青色の果実は赤色や黒色の果実に比べ、水分が少なく油(脂質)の占める割合が高く、高カロリーであることがわかっている。このため、果実の青色は、鳥類の中でも長距離を移動するために特に高カロリーの食物を必要とする渡り鳥を惹きつけ、種子を遠くまで運んでもらうためのサインとして機能しているのではないかという仮説が考えられている。
サワフタギに近縁で、同種として扱われることもあるSymplocos paniculata(日本固有のクロミノニシゴリの学名として使用されるが、韓国や中国、ヒマラヤ、インドシナに広く分布するSymplocos chinensisの学名として使用されることも多い)もオイル植物として有名で、果実から搾ったオイルは食用、薬用とされ、バイオ燃料としての活用も検討されている。インドの伝統的医学であるアーユルヴェーダにおいても、ハイノキ属の果実から絞ったオイルが使われる。サワフタギの青色の果実にも、ガマズミ属の青色の果実と同様に、脂質が多く高カロリーであることをアピールする機能があるのかもしれない。また、陶器のような美しい輝きにも、外果皮に油細胞や油滴が含まれていることが関係していそうである。